アッテネータ自身の反射不整合と位相干渉
高周波回路において、「不整合点」は負荷(アンテナやアンプなど)だけではありません。挿入する減衰器(アッテネータ)そのものもインピーダンスの不整合を持っており、ここで信号の反射が起こります。これらが複数存在する場合、高周波信号は「位相干渉(多重反射)」という劇的な現象を引き起こします。
👉 1. 反射波同士の「強め合い」と「打ち消し合い」
アッテネータ1の表面で跳ね返った反射波、アッテネータ2で跳ね返った反射波、そして終端負荷で跳ね返った反射波。これらすべての反射波は、同時に送信機に向かって戻っていきます。
このとき、それぞれの波が戻ってきた時点の**「位相(波のタイミング)」**がぴったり揃っていると、波は重ね合わされて大きくなり、総合VSWRは悪化します。逆に、位相が半周期(180度)ずれていると、戻ってきた波同士が互いを相殺し合い、総合VSWRが劇的に改善します。
これが、アッテネータの物理的な配置位置をドラッグしたときに、送信端のVSWRが大きく変動する物理的理由です。
位相長(電気長)と定在波ピッチ
反射波が往復する距離が波長 $\lambda$ に対してどれくらいであるかによって位相が決まります。
波は不整合点を1往復するごとに、距離の2倍分の位相変化を受けます。そのため、アッテネータを動かすだけで、送信端への帰還反射ベクトルの「角度」が目まぐるしく回転することになります。
なぜ多重反射を抑える必要があるのか
アッテネータ自身のVSWRが悪い(固有特性インピーダンス $Z_{att}$ が $50\ \Omega$ から大きくズレているなど)場合、いくら減衰量が大きくてもアッテネータの入り口自身で大きな反射を作ってしまい、前段の回路(送信機等)を保護できません。
したがって、減衰量の多さだけでなく、アッテネータ自体の特性インピーダンスの「整合度(低VSWR性)」がいかに重要であるかが、本モデルから視覚的に実証されます。
複素ベクトル多重反射方程式
高周波工学(電磁波工学)における位相遅延と反射・透過係数を用いた厳密な定式化を示します。
1. 往復位相遅延と指数表現
送信端を原点 $x = 0$、伝搬定数を $\beta = \frac{2\pi}{\lambda}$ とします。位置 $x$ にある不整合点で反射した電波が、送信端に戻ってきた時の位相シフトは以下のように複素指数表現されます。
$$e^{-j 2 \beta x} = \cos(2\beta x) - j \sin(2\beta x)$$
2. 総合帰還反射係数の一次加算(ベクトル合成公式)
アッテネータ1の電圧透過率を $k_1 = 10^{-A_1/20}$、アッテネータ2を $k_2 = 10^{-A_2/20}$ とし、アッテネータ特性インピーダンス $Z_{att}$ から定まる固有反射係数を $\Gamma_{att}$、負荷反射係数を $\Gamma_L$ と置きます。
多重反射の一次寄与(もっとも支配的な帰還波の重ね合わせ)を考えると、送信端から見た総合入力反射係数 $\Gamma_{in}$ は次のようになります。
$$\Gamma_{in} = \Gamma_{att} e^{-j 2 \beta x_1} + k_1^2 \Gamma_{att} e^{-j 2 \beta x_2} + k_1^2 k_2^2 \Gamma_L e^{-j 2 \beta x_L}$$
この複素数ベクトルの実部 $X$ と虚部 $Y$ を展開して振幅を求めます:
$$\begin{aligned}
X &= \Gamma_{att}\cos(2\beta x_1) + k_1^2 \Gamma_{att}\cos(2\beta x_2) + k_1^2 k_2^2 \Gamma_L\cos(2\beta x_L) \\
Y &= -\Gamma_{att}\sin(2\beta x_1) - k_1^2 \Gamma_{att}\sin(2\beta x_2) - k_1^2 k_2^2 \Gamma_L\sin(2\beta x_L) \\
|\Gamma_{in}| &= \sqrt{X^2 + Y^2}
\end{aligned}$$
★物理的な挙動: 位置 $x_1, x_2$ の変化に追従して、三角関数のコサイン・サイン波が互いに干渉し合い、合成振幅 $|\Gamma_{in}|$ が周期的に極大・極小を繰り返す様子が、本シミュレータのドラッグ操作時に正確に表現されています。
アッテネータの固有VSWRの重要性と実設計ノウハウ
高周波の測定や分配、保護ラインの設計において、アッテネータ選定時に不整合反射をいかに配慮すべきかの指針です。
💎 アッテネータ自身の低VSWRの重要性
安価なアッテネータや動作周波数帯域外のアッテネータを使用すると、固有VSWRが 1.3〜1.5 程度まで悪化します。
固有VSWRが悪いアッテネータを挟むと、負荷との間で多重反射を生成し、システム全体の振幅フラットネス(周波数特性)を歪ませる原因になります。高精度測定ラインでは「VSWR < 1.15」などの高品質アッテネータが必須です。
📡 ケーブル長による「最悪VSWR」の回避
複数不整合が避けられない構成の場合、不整合点間の接続ケーブル長を調整することで、主要動作周波数におけるVSWRの打ち消し合い(位相整合)をあえて狙う設計も存在します。
しかし、このアプローチは「特定の狭帯域のみ」有効であるため、広帯域回路ではアッテネータ個体自体のVSWR性能を上げることが基本原則です。