長さ $l$ を増やすと、軌跡は時計回り(波源方向)に回転します
パラメータ調整・終端設定
① 終端負荷 $Z_L$ の指定
終端は「開放(インピーダンス無限大)」状態です
② 媒質と長さの調整
③ 特性インピーダンス $Z_0$
$Z_0 \approx \frac{60}{\sqrt{\epsilon_r}} \ln\left(\frac{D}{d}\right)$ に基づき自動計算されます。
寸法に基づかない理想線路としての特性インピーダンスを設定します。
1. 同軸ケーブル内の電磁波伝搬と比誘電率
同軸ケーブルは、内部導体(半径 $a$)と外部導体(内半径 $b$)の隙間を誘電体(比誘電率 $\epsilon_r$)で満たした構造をしています。この空間を電磁波(主にTEMモード)が伝搬します。このとき、比誘電率率は伝搬速度と特性インピーダンスの双方に極めて重要な影響を及ぼします。
① 伝搬速度と波長短縮効果
自由空間(真空)中の光速を $c \approx 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}$ とすると、比誘電率 $\epsilon_r$ の誘電体中における電磁波の伝搬速度 $v$ は次式のように遅くなります。
速度が低下するため、同じ周波数 $f$ であってもケーブル内の波長 $\lambda$ は自由空間中の波長 $\lambda_0$ に比べて短くなります(波長短縮効果)。
② 特性インピーダンス $Z_0$
同軸ケーブルの特性インピーダンス $Z_0$(無損失と仮定)は、幾何学的な寸法(外径 $D = 2b$, 内径 $d = 2a$)と、充填されている誘電体の比誘電率 $\epsilon_r$ によって以下のように決定されます。
同じ寸法比であっても、比誘電率が高い($\epsilon_r$ が大きい)ほど、特性インピーダンス $Z_0$ は低下します。一般的なポリエチレン充填ケーブル($\epsilon_r \approx 2.25$)で $50\,\Omega$ や $75\,\Omega$ に設計されています。
2. 入力インピーダンスを解く公式と計算手順
任意の負荷インピーダンス $Z_L$ が接続された長さ $l$、特性インピーダンス $Z_0$ の伝送線路(同軸ケーブル)の入力端から見たインピーダンス $Z_{in}(l)$ は、分布定数回路理論を用いて計算します。
◆ 入力インピーダンスの基本公式
- $j = \sqrt{-1}$ :虚数単位
- $\beta = \frac{2\pi}{\lambda}$ :位相定数 (Phase Constant)
- $l$ :ケーブルの物理長 [m]
- $\theta = \beta l$ :ケーブルの「電気長 (Electrical Length)」[rad]
■ 計算ステップの手順
比誘電率 $\epsilon_r$ から伝搬速度 $v = c/\sqrt{\epsilon_r}$ を求め、与えられた周波数 $f$ から波長 $\lambda = v/f$ を算出する。
位相定数 $\beta = 2\pi/\lambda$ を求め、ケーブル長 $l$ に対する位相角 $\beta l$ (ラジアン) を計算する。
負荷インピーダンス $Z_L = R_L + jX_L$ と特性インピーダンス $Z_0$、および $\tan(\beta l)$ を基本公式に代入する。
分母の有理化を行い、入力インピーダンスの実部 $R_{in}$ と虚部 $X_{in}$ を分離して $Z_{in} = R_{in} + jX_{in}$ を得る。
3. 各種終端における振る舞いと重要法則
① 短絡終端 ($Z_L = 0$) の場合
終端をショートさせると、$Z_L = 0$ を基本公式に代入することで、入力インピーダンスは以下のように極めて単純な純虚数(リアクタンスのみ)になります。
この特性は、ケーブル長 $l$ によって全く異なる素子のように動作します。
- $l < \lambda/4$ のとき: $\tan(\beta l) > 0$ となり、インダクタ(L)として振る舞う。
- $l = \lambda/4$ のとき: $\tan(\beta l) \to \infty$ となり、並列共振(開放状態・インピーダンス無限大)に化ける。
- $\lambda/4 < l < \lambda/2$ のとき: $\tan(\beta l) < 0$ となり、キャパシタ(C)として振る舞う。
- $l = \lambda/2$ のとき: $\tan(\beta l) = 0$ となり、再び元のショート状態 ($Z_{in} = 0$) に戻る(直列共振)。
② 開放終端 ($Z_L \to \infty$) の場合
終端をオープンにすると、$Z_L \to \infty$ の極限をとることで、入力インピーダンスは以下のようになります。
短絡終端とは「虚数パートの正負が逆」の関係になります。
- $l < \lambda/4$ のとき: $\cot(\beta l) > 0$ なので、インピーダンス全体は負の虚数となり、キャパシタ(C)として振る舞う。
- $l = \lambda/4$ のとき: $\cot(\beta l) = 0$ となり、直列共振(短絡状態・インピーダンス $0$)に化ける。
- $\lambda/4 < l < \lambda/2$ のとき: $\cot(\beta l) < 0$ なので、インピーダンス全体は正の虚数となり、インダクタ(L)として振る舞う。
- $l = \lambda/2$ のとき: $\cot(\beta l) \to \infty$ となり、再び元のオープン状態 ($Z_{in} \to \infty$) に戻る(並列共振)。
③ 整合終端 ($Z_L = Z_0$) の場合
負荷インピーダンスがケーブルの特性インピーダンスと完全に等しい場合、基本公式は次のように変化します。
驚くべきことに、ケーブル長 $l$ や周波数 $f$ に関係なく、入力インピーダンスは常に特性インピーダンス $Z_0$ と一定になります。このとき反射波は一切発生せず、信号エネルギーがすべて負荷に吸収されます(これが「インピーダンス整合」の極意です)。
④ $\lambda/4$ インピーダンス変換器の法則
ケーブルの物理長が正確に「管内波長の4分の1」($l = \lambda/4 \Rightarrow \beta l = \pi/2$)のとき、$\tan(\beta l) \to \infty$ となるため、基本公式を極限評価すると次のようになります。
これにより、負荷インピーダンス $Z_L$ が反転(逆数)されて入力端に現れます。 例として、負荷 $Z_L$ が $100\,\Omega$ で、ケーブルの $Z_0 = 50\,\Omega$ の場合、$\lambda/4$ の入力端では $Z_{in} = 50^2 / 100 = 25\,\Omega$ に変換されます。これを利用して、異なるインピーダンスの回路を整合させることができます。
4. スミスチャートの見方と具体的な書き方
スミスチャート(Smith Chart)は、高周波回路や伝送線路における複雑な複素インピーダンス計算を、定規やコンパスを使って**図形的に解決するため**に1939年にフィリップ・スミス氏によって考案された画期的な二次元複素座標系です。
◆ スミスチャートの見方(基本構造)
スミスチャートは、**「複素反射係数 $\Gamma$ 面の単位円( $|\Gamma| \le 1$ )」**の中に、対応する正規化インピーダンス $z = r + jx$ の格子線を投影したものです。
- 中心軸(水平な一直線): 純抵抗軸です(リアクタンス $x = 0$)。
- 左端点: $r = 0$(インピーダンスゼロ、すなわち短絡・ショート)
- 中央点: $r = 1$(正規化抵抗1、特性インピーダンス $Z_0$ と等しい整合点)
- 右端点: $r = \infty$(インピーダンス無限大、すなわち開放・オープン)
- 上半分エリア: 誘導性(+リアクタンス $jx$、インダクタ挙動)を意味します。
- 下半分エリア: 容量性(-リアクタンス $-jx$、キャパシタ挙動)を意味します。
- 等抵抗円(等 $r$ 円): チャート内の右端点 $(1, 0)$ を必ず通過する同軸の正円です。この円上ではレジスタンス成分 $r$ が一定です。
- 等リアクタンス円(等 $x$ 円): チャート外側から右端点 $(1, 0)$ に向かって湾曲して集まる円弧です。この円弧上ではリアクタンス成分 $x$ が一定です。
◆ スミスチャートの書き方(軌跡のプロット法)
同軸ケーブルの長さ $l$ を変化させたとき、入力インピーダンス $Z_{in}$ がどのように変化するかをチャート上に描き出す手順です。
- インピーダンスの正規化:
接続する終端負荷 $Z_L = R_L + jX_L$ を、ケーブルの特性インピーダンス $Z_0$ で割って、単位を持たない**正規化インピーダンス $z_L$** に変換します。
$$z_L = \frac{Z_L}{Z_0} = \frac{R_L}{Z_0} + j\frac{X_L}{Z_0} = r_L + jx_L$$
- 負荷点のプロット(初期点): チャート上で等抵抗円 $r_L$ と等リアクタンス円弧 $x_L$ の交点を探し、プロットします(シミュレーターの青点に相当)。
- 波源(入力端)方向への回転: チャートの中心($1.0$)から負荷点までの距離を半径とする円(等VSWR円)を描きます。 ケーブル長 $l$ が増えるにつれて、この等VSWR円上を、**中心を軸にして「時計回り(Wavelengths Toward Generator: 波源方向)」**に回転移動させます。
- 回転角度の算出: 電磁波は往復するため、物理長 $l$ に対して電気角は $2\beta l = \frac{4\pi l}{\lambda}$ 回転します。 すなわち、**ケーブル長が $l = \lambda/2$(半波長)伸びるごとに、スミスチャート上をちょうど1周($360^\circ$)回転**し、同じインピーダンスに戻ります($\lambda/4$ 長で半周 $180^\circ$ 回転)。
- 入力インピーダンスの読み取り:
指定したケーブル長 $l$ に対応する角度だけ回転した位置をプロットします(シミュレーターの赤点に相当)。
その点の交差する格子から、正規化値 $z_{in} = r_{in} + jx_{in}$ を読み取り、最後に $Z_0$ を掛けることで、実際の入力インピーダンス $Z_{in}$ を復元します。
$$Z_{in} = z_{in} \times Z_0 \quad [\Omega]$$