同軸ケーブル・インピーダンス整合シミュレーター

比誘電率 $\epsilon_r$ と終端条件による波動とインピーダンスの振る舞い

① アニメーション ② パラメータ設定 ③ 解法と公式の解説
電圧・電流分布アニメーション 同軸ケーブル内部の定在波・進行波・反射波の物理挙動
表示切替:
進行波 (右向き $V^+$)
反射波 (左向き $V^-$)
瞬時合成波 ($V_{total}$)
定在波包絡線 (振幅範囲)
複素平面 / スミスチャート 反射係数 $\Gamma$ と $Z_{in}$ 軌跡
青点: 終端負荷 $Z_L$ (長 $l=0$) 赤点: 入力端 $Z_{in}$ (長 $l$)
長さ $l$ を増やすと、軌跡は時計回り(波源方向)に回転します
特性インピーダンス $Z_0$
50.0 Ω
同軸寸法・誘電率から計算される線路固有値
波長 $\lambda$ / 伝搬速度 $v$
66.7 cm
短縮率: 66.7% (2.00×10⁸ m/s)
入力インピーダンス $Z_{in}$
--- Ω
---
電圧定在波比 VSWR
1.00
反射係数 |Γ| = 0.00

パラメータ調整・終端設定

① 終端負荷 $Z_L$ の指定

$\Omega$
+j $\Omega$

② 媒質と長さの調整

比誘電率 $\epsilon_r$ 2.25
周波数 $f$ 300 MHz
ケーブル長 $l$ 1.00 m
0.05 m --- 2.00 m

③ 特性インピーダンス $Z_0$

mm
mm

$Z_0 \approx \frac{60}{\sqrt{\epsilon_r}} \ln\left(\frac{D}{d}\right)$ に基づき自動計算されます。

1. 同軸ケーブル内の電磁波伝搬と比誘電率

同軸ケーブルは、内部導体(半径 $a$)と外部導体(内半径 $b$)の隙間を誘電体(比誘電率 $\epsilon_r$)で満たした構造をしています。この空間を電磁波(主にTEMモード)が伝搬します。このとき、比誘電率率は伝搬速度と特性インピーダンスの双方に極めて重要な影響を及ぼします。

① 伝搬速度と波長短縮効果

自由空間(真空)中の光速を $c \approx 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}$ とすると、比誘電率 $\epsilon_r$ の誘電体中における電磁波の伝搬速度 $v$ は次式のように遅くなります。

$$v = \frac{c}{\sqrt{\epsilon_r}} \quad [\text{m/s}]$$

速度が低下するため、同じ周波数 $f$ であってもケーブル内の波長 $\lambda$ は自由空間中の波長 $\lambda_0$ に比べて短くなります(波長短縮効果)。

$$\lambda = \frac{v}{f} = \frac{\lambda_0}{\sqrt{\epsilon_r}} \quad [\text{m}]$$

② 特性インピーダンス $Z_0$

同軸ケーブルの特性インピーダンス $Z_0$(無損失と仮定)は、幾何学的な寸法(外径 $D = 2b$, 内径 $d = 2a$)と、充填されている誘電体の比誘電率 $\epsilon_r$ によって以下のように決定されます。

$$Z_0 = \frac{1}{2\pi} \sqrt{\frac{\mu_0}{\epsilon_0 \epsilon_r}} \ln\left(\frac{D}{d}\right) \approx \frac{60}{\sqrt{\epsilon_r}} \ln\left(\frac{D}{d}\right) \quad [\Omega]$$

同じ寸法比であっても、比誘電率が高い($\epsilon_r$ が大きい)ほど、特性インピーダンス $Z_0$ は低下します。一般的なポリエチレン充填ケーブル($\epsilon_r \approx 2.25$)で $50\,\Omega$ や $75\,\Omega$ に設計されています。

2. 入力インピーダンスを解く公式と計算手順

任意の負荷インピーダンス $Z_L$ が接続された長さ $l$、特性インピーダンス $Z_0$ の伝送線路(同軸ケーブル)の入力端から見たインピーダンス $Z_{in}(l)$ は、分布定数回路理論を用いて計算します。

◆ 入力インピーダンスの基本公式

$$Z_{in}(l) = Z_0 \frac{Z_L + j Z_0 \tan(\beta l)}{Z_0 + j Z_L \tan(\beta l)} \quad [\Omega]$$
ここで、
  • $j = \sqrt{-1}$ :虚数単位
  • $\beta = \frac{2\pi}{\lambda}$ :位相定数 (Phase Constant)
  • $l$ :ケーブルの物理長 [m]
  • $\theta = \beta l$ :ケーブルの「電気長 (Electrical Length)」[rad]

■ 計算ステップの手順

Step 1. 伝搬速度と波長

比誘電率 $\epsilon_r$ から伝搬速度 $v = c/\sqrt{\epsilon_r}$ を求め、与えられた周波数 $f$ から波長 $\lambda = v/f$ を算出する。

Step 2. 位相角 (電気長)

位相定数 $\beta = 2\pi/\lambda$ を求め、ケーブル長 $l$ に対する位相角 $\beta l$ (ラジアン) を計算する。

Step 3. 公式に代入

負荷インピーダンス $Z_L = R_L + jX_L$ と特性インピーダンス $Z_0$、および $\tan(\beta l)$ を基本公式に代入する。

Step 4. 複素数計算

分母の有理化を行い、入力インピーダンスの実部 $R_{in}$ と虚部 $X_{in}$ を分離して $Z_{in} = R_{in} + jX_{in}$ を得る。

3. 各種終端における振る舞いと重要法則

① 短絡終端 ($Z_L = 0$) の場合

終端をショートさせると、$Z_L = 0$ を基本公式に代入することで、入力インピーダンスは以下のように極めて単純な純虚数(リアクタンスのみ)になります。

$$Z_{in}(l) = j Z_0 \tan(\beta l)$$

この特性は、ケーブル長 $l$ によって全く異なる素子のように動作します。

  • $l < \lambda/4$ のとき: $\tan(\beta l) > 0$ となり、インダクタ(L)として振る舞う
  • $l = \lambda/4$ のとき: $\tan(\beta l) \to \infty$ となり、並列共振(開放状態・インピーダンス無限大)に化ける
  • $\lambda/4 < l < \lambda/2$ のとき: $\tan(\beta l) < 0$ となり、キャパシタ(C)として振る舞う
  • $l = \lambda/2$ のとき: $\tan(\beta l) = 0$ となり、再び元のショート状態 ($Z_{in} = 0$) に戻る(直列共振)。

② 開放終端 ($Z_L \to \infty$) の場合

終端をオープンにすると、$Z_L \to \infty$ の極限をとることで、入力インピーダンスは以下のようになります。

$$Z_{in}(l) = -j Z_0 \cot(\beta l) = \frac{Z_0}{j \tan(\beta l)}$$

短絡終端とは「虚数パートの正負が逆」の関係になります。

  • $l < \lambda/4$ のとき: $\cot(\beta l) > 0$ なので、インピーダンス全体は負の虚数となり、キャパシタ(C)として振る舞う
  • $l = \lambda/4$ のとき: $\cot(\beta l) = 0$ となり、直列共振(短絡状態・インピーダンス $0$)に化ける
  • $\lambda/4 < l < \lambda/2$ のとき: $\cot(\beta l) < 0$ なので、インピーダンス全体は正の虚数となり、インダクタ(L)として振る舞う
  • $l = \lambda/2$ のとき: $\cot(\beta l) \to \infty$ となり、再び元のオープン状態 ($Z_{in} \to \infty$) に戻る(並列共振)。

③ 整合終端 ($Z_L = Z_0$) の場合

負荷インピーダンスがケーブルの特性インピーダンスと完全に等しい場合、基本公式は次のように変化します。

$$Z_{in}(l) = Z_0 \frac{Z_0 + j Z_0 \tan(\beta l)}{Z_0 + j Z_0 \tan(\beta l)} = Z_0$$

驚くべきことに、ケーブル長 $l$ や周波数 $f$ に関係なく、入力インピーダンスは常に特性インピーダンス $Z_0$ と一定になります。このとき反射波は一切発生せず、信号エネルギーがすべて負荷に吸収されます(これが「インピーダンス整合」の極意です)。

④ $\lambda/4$ インピーダンス変換器の法則

ケーブルの物理長が正確に「管内波長の4分の1」($l = \lambda/4 \Rightarrow \beta l = \pi/2$)のとき、$\tan(\beta l) \to \infty$ となるため、基本公式を極限評価すると次のようになります。

$$Z_{in}(\lambda/4) = \frac{Z_0^2}{Z_L}$$

これにより、負荷インピーダンス $Z_L$ が反転(逆数)されて入力端に現れます。 例として、負荷 $Z_L$ が $100\,\Omega$ で、ケーブルの $Z_0 = 50\,\Omega$ の場合、$\lambda/4$ の入力端では $Z_{in} = 50^2 / 100 = 25\,\Omega$ に変換されます。これを利用して、異なるインピーダンスの回路を整合させることができます。

4. スミスチャートの見方と具体的な書き方

スミスチャート(Smith Chart)は、高周波回路や伝送線路における複雑な複素インピーダンス計算を、定規やコンパスを使って**図形的に解決するため**に1939年にフィリップ・スミス氏によって考案された画期的な二次元複素座標系です。

◆ スミスチャートの見方(基本構造)

スミスチャートは、**「複素反射係数 $\Gamma$ 面の単位円( $|\Gamma| \le 1$ )」**の中に、対応する正規化インピーダンス $z = r + jx$ の格子線を投影したものです。

  • 中心軸(水平な一直線): 純抵抗軸です(リアクタンス $x = 0$)。
    • 左端点: $r = 0$(インピーダンスゼロ、すなわち短絡・ショート
    • 中央点: $r = 1$(正規化抵抗1、特性インピーダンス $Z_0$ と等しい整合点
    • 右端点: $r = \infty$(インピーダンス無限大、すなわち開放・オープン
  • 上半分エリア: 誘導性(+リアクタンス $jx$、インダクタ挙動)を意味します。
  • 下半分エリア: 容量性(-リアクタンス $-jx$、キャパシタ挙動)を意味します。
  • 等抵抗円(等 $r$ 円): チャート内の右端点 $(1, 0)$ を必ず通過する同軸の正円です。この円上ではレジスタンス成分 $r$ が一定です。
  • 等リアクタンス円(等 $x$ 円): チャート外側から右端点 $(1, 0)$ に向かって湾曲して集まる円弧です。この円弧上ではリアクタンス成分 $x$ が一定です。

◆ スミスチャートの書き方(軌跡のプロット法)

同軸ケーブルの長さ $l$ を変化させたとき、入力インピーダンス $Z_{in}$ がどのように変化するかをチャート上に描き出す手順です。

  1. インピーダンスの正規化: 接続する終端負荷 $Z_L = R_L + jX_L$ を、ケーブルの特性インピーダンス $Z_0$ で割って、単位を持たない**正規化インピーダンス $z_L$** に変換します。
    $$z_L = \frac{Z_L}{Z_0} = \frac{R_L}{Z_0} + j\frac{X_L}{Z_0} = r_L + jx_L$$
  2. 負荷点のプロット(初期点): チャート上で等抵抗円 $r_L$ と等リアクタンス円弧 $x_L$ の交点を探し、プロットします(シミュレーターの青点に相当)。
  3. 波源(入力端)方向への回転: チャートの中心($1.0$)から負荷点までの距離を半径とする円(等VSWR円)を描きます。 ケーブル長 $l$ が増えるにつれて、この等VSWR円上を、**中心を軸にして「時計回り(Wavelengths Toward Generator: 波源方向)」**に回転移動させます。
  4. 回転角度の算出: 電磁波は往復するため、物理長 $l$ に対して電気角は $2\beta l = \frac{4\pi l}{\lambda}$ 回転します。 すなわち、**ケーブル長が $l = \lambda/2$(半波長)伸びるごとに、スミスチャート上をちょうど1周($360^\circ$)回転**し、同じインピーダンスに戻ります($\lambda/4$ 長で半周 $180^\circ$ 回転)。
  5. 入力インピーダンスの読み取り: 指定したケーブル長 $l$ に対応する角度だけ回転した位置をプロットします(シミュレーターの赤点に相当)。 その点の交差する格子から、正規化値 $z_{in} = r_{in} + jx_{in}$ を読み取り、最後に $Z_0$ を掛けることで、実際の入力インピーダンス $Z_{in}$ を復元します。
    $$Z_{in} = z_{in} \times Z_0 \quad [\Omega]$$